【論文発表のお知らせ】人為起源によるサンゴ礁の撹乱の変遷をサンゴ骨格から検出 ~奄美大島住用湾における産業発展・土地利用変遷に対するサンゴの応答~

奄美大島住用湾のサンゴ骨格記録
持続可能なサンゴ礁と産業発展に向けて

喜界島サンゴ礁科学研究所 渡邊剛 理事長の研究グループは、奄美大島住用湾の造礁サンゴの骨格から、過去46年間の産業発展と集中豪雨・洪水がもたらす土砂の流出が、サンゴの生息環境と骨格成長へ影響を与えることを明らかにしました。

奄美大島住用湾は造礁サンゴの生息域であり、マングローブ林が広がる住用川と役勝川の河口域に位置しています。住用湾沿岸域では過去46年間にわたり、大島紬の生産や農業など様々な産業が発展してきました。この地域では、集中豪雨・洪水がもたらす土砂の流出による造礁サンゴへの影響が懸念され、これまで、リーフチェックや白化現象のモニタリングにより明らかにされてきました。

しかし、奄美大島住用湾のように河川や湾における定期的な水質モニタリングが実施されていない地域では、集中豪雨・洪水や産業発展がサンゴに対応する長期的かつ定量的なサンゴの成長の詳細はあまり明らかになっていませんでした。そこで研究グループは、奄美大島住用湾の造礁サンゴ骨格を用い、骨格成長の記録と過去の洪水および湾沿岸域の産業史を詳細に比較しました。サンゴの骨格には樹木のように年輪が刻まれており、過去の海洋環境の変動が1週間~1ヶ月間程度の細かい精度で記録されています。

比較の結果、サンゴの骨格成長は土砂流量を反映している可能性が示唆され、住用湾内の土砂流量はサンゴの骨格成長を制御する要因の一つであることがわかりました。過去46年間におけるサンゴ骨格の化学組成の変化は河口域の海水温や海水中の土砂流量・集中豪雨・洪水による海洋環境の変化を記録していました。これらの結果と住用川流域の産業の変遷から,産業の発展は海水中の土砂流量を変化させ、造礁サンゴ骨格はそれに応答する形で成長していることがわかりました。

サンゴ骨格の柱状試料

本研究結果は、気候変動による局地的な豪雨の頻発や人類活動の増加が予想される将来の熱帯・亜熱帯域において、サンゴ礁と人間社会が持続的な相互関係を築いていくための重要な知見となることが期待されます。

なお、本研究成果は,2020年5月12日(火)公開のScientific Reports誌に掲載されました。

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北海道大学 プレスリリース(研究発表)

NaNature Research Ecology & Evolution Communityの記事
Influence of local industrial changes on reef coral calcification

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